ライオンをつないでいた杭の話

ライオンをつないでいた杭の話

By |2017-06-17T14:06:10+00:002017-06-17|Tags: , , , , , |

あれはいつの
ことだったか。

旅の途中で広い
草原に出たことがある。

そこで私は
一匹のライオンを見た。

立派なたてがみを持った
大きく立派なライオンだ。

そのライオンの前を
一匹のウサギがとおりかかった。

私はきっと、
ウサギは食べられて
しまうだろうと思った。

ところが、

ライオンはウサギに
飛びかからなかったんだ。

私はライオンにたずねた。

「お腹がいっぱいだから
ウサギを食べないのかい?」

「いいや。腹ペコさ」

ライオンは
悲しそうに言った。

「ウサギは好きじゃないのかい?」

「いいや、大好物さ」

ライオンの腹が
ぐーっと鳴るのが聞こえた。

「じゃあ、なんで食べなかったんだい?」

私がそう言うと、
ライオンは自分の足元を見つめた。

私もライオンの足元を見た。

ライオンの足は
杭につながれていたんだ。

でも、その杭は
驚くほど小さかった。

「その杭のせいで動けないのかい?」

「そうなんだ。小さい頃から
ずーっとつながれてるんだ」

ライオンは、
そんな杭をいとも
簡単に引っこ抜けるほど、

自分が
大きくなっていることに
気づいていなかったんだ。

~・~・~・~

by John.K


(jar/Flickr)


この記事を書いた人

John Kim
日本に国費留学。ハーバード大学、オックスフォード大学などでの客員研究員を経て、2004年から約10年間、慶應義塾大学の特任准教授を歴任。2013年からはパリ・バルセロナ・フィレンツェ・ウィーンに拠点を移し、執筆中心の生活を送っている。