腕のいい精神科医の話

腕のいい精神科医の話

By |2017-06-16T19:45:39+00:002017-06-16|Tags: , , |

~・~・~・~

ある国で、
ひどい戦争があった。

戦争のなかで、
多くの人が心を病んだ。

しかし、
病んだ心を治せる医師は、
その国にはひとりもいなかった。

医師もまた心を
病んでいたからだ。

あるとき、
遠い国から腕のいい
精神科医がやってきた。

何人もの患者が
その医師を頼ってやってきた。

驚いたことに、

その医師は、
患者にほとんど薬を
出さなかったという。

それなのに、
患者はみるみる
回復していった。

どんな診察をしているのか
と、興味を持った人たちが、
こっそり治療室を覗いてみた。

そこには、
不思議な光景が広がっていた。

医師は何も質問せず、
患者がひとりで話し続けていた。

医師は、
おだやかな笑みをたたえて、
そこに座っているだけだった。

この医師が
聞き上手だったのは
無理もない。

この医師は、
この国の言葉が
わからなかったのだから。

~・~・~・~

by John.K


(Bethan/Flickr)


この記事を書いた人

John Kim
日本に国費留学。ハーバード大学、オックスフォード大学などでの客員研究員を経て、2004年から約10年間、慶應義塾大学の特任准教授を歴任。2013年からはパリ・バルセロナ・フィレンツェ・ウィーンに拠点を移し、執筆中心の生活を送っている。