旅に出よ。居場所を変えよ

旅に出よ。居場所を変えよ

By |2017-06-09T01:27:09+00:002015-09-29|Tags: |

環境を大きく変えることは難しい、さまざまな理由によってハードルが高すぎる、という人もいるかもしれない。ならば、私は旅を勧めたい。
新しい場所、人、そしていろいろな価値観に触れる。そうした経験は、今ある自分の境界を越えることを意味する。実は境界を越えるときにこそ、人間は強くなれる。それまでにはなかった、新しい自分を手に入れることになるのだ。

私自身にも経験がある。20歳のときに行った、アフリカ、中東への旅行は、人生観を大きく変えることになった。生きていることはいかに奇跡的なことであるか、を知ったのも、このときである。

冒険家の気持ちもわかった。冒険家たちは、死ぬ危険に直面するために冒険しているのではない。生きていることを実感するために冒険するのだと私は思った。途方もない緊張感があった場合にこそ、人間は生きている実感をするのである。

命の危険にさらされ、冒険をしているときには、生きるということに対する強い濃度を感じるのだ。だから、また冒険したくなってしまう。この一瞬に命をかけるからこそ、生きるエネルギーを痛感するのだと思う。

冒険まで行かなくても、日常から非日常に移動するだけでも大きな意味を持つ。もっといえば、物理的に移動するだけが旅ではない。本を読んだり、映画を見たりすることも同じだ。ただ、人間のセンサーがよりダイナミックに働くのは、やはり実際に境界を越えて旅するときだと思う。

旅が終わると人間が疲れるのは、センサーをたくさん回した結果だ。それだけ人間の適応能力やサバイバル能力は高まっていく。これまで経験しなかったこと、出会わなかったこと、感じなかったこと、考えていなかったものに接することによって、新たな学びの材料をたくさん手に入れることができる。旅は、自己成長のための種をいっぱい拾える貴重な場なのである。

日常の中に、非日常を入れていくことだ。そもそも人間のアイデンティティは、差異から生まれる。違いを見て、初めて自分を実感することができる。日本は同質的な社会。同質的なものばかりに囲まれていると、自分のアイデンティティが認識できにくい。他者を理解することによって、初めて見えてくる自分もある。

自分のアイデンティティを確認するためにも、旅に出ることは重要である。出て初めて、自分が、あるいは日本が見えてくる。日本にいるのではわからない客観的な視点を、手に入れることができるのである。


この記事を書いた人

John Kim
日本に国費留学。ハーバード大学、オックスフォード大学などでの客員研究員を経て、2004年から約10年間、慶應義塾大学の特任准教授を歴任。2013年からはパリ・バルセロナ・フィレンツェ・ウィーンに拠点を移し、執筆中心の生活を送っている。